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まち・ひと・しごとを繋ぐ ~技術がそれを可能にする~

河野 千代 技術士(建設部門)

インフラネットワーク周辺では、企業を集め、ひとを集めた結果が見て取れる。ひとや社会の活動に、ひと・モノの移動は必要で、「不便」はひとを遠ざける。人口減少に歯止めをかけ、地方の活性化を促すには「コンパクト」だけでは難しく、技術者の造り、遺すインフラネットワークで地域社会に貢献したい。技術者の担う役割は重く大きく、その成果は国民の安全・安心と建設資産としての価値に大きく影響する。「プロフェッショナル」であることに恥じない成果で社会と国民の期待に応えたい。

キーワード:繋ぐ,インフラストラクチャー(社会基盤),建設資産,品質は技術者の意思

1.はじめに

まち・ひと・しごとをインフラは繋ぐ。ひとや社会の活動に人とモノの移動は必要で、「不便」は多くのひとを遠ざける。一方で、災害時においてインフラは「いのち」を守る施設となり、「いのち」を繋ぐ道となる。技術者の造り、遺すインフラは、長期にわたり多くの営為を守りつづけ、地域や国力の維持と発展をもたらす重要な要素といえる。故に、我が国の社会基盤をつくり、守る技術者の担う役割は大きく、その社会的責任は重い。

ここでは、地域の維持・発展における課題克服に向けた国の方針と近畿におけるストック効果をいくつか紹介し、相次ぎ露見する建設工事の不祥事に鑑みて、すべての技術者へ。インフラを「つくり守る(維持)側」の私が考える『プロフェッショナル・エンジニア』について述べてみたい。

2.国の基本方針

2050年、人口が2010年の半分以下となる地点は現在居住地域の6割以上と予測されている 1)。都市圏の機能維持には一定規模以上の人口が必要であり、今後急速に加速する少子高齢化、首都圏への過度の人口集中に歯止めをかけるとともにそれぞれの地域を活性化することで活力ある日本社会の維持を目的とした「まち・ひと・しごと創生法」が施行された。キーワードは「潤いある豊かな生活を安心して営める地域社会の形成」「地域社会を担う多様な人材の確保」「地域における魅力のある多様な就業機会の創出」である 2)。これと並行し、国土交通省では「東日本大震災からの復興加速」以外に以下の基本方針を打ち出し1)、施策を進められている。

2.1 豊かで利便性の高い地域社会の実現 1)
「コンパクト」だけで地域機能を維持することは難しい。地域生活拠点と都心を結ぶ「コンパクト」+「ネットワーク」により圏域を拡大することで距離の制約を克服し、利便性を高め、地域と拠点の連携を確保する。また、地域センター型の道の駅には診療所、役場機能、高齢者住宅などを併設し、高度な防災機能を備えた広域支援や後方支援拠点を形成する。地域を支える生活幹線ネットワークを繋ぎ、豊かで利便性の高い地域社会の実現を目指す。

●医療体制維持の例
長野県佐久市周辺では、上信越道、中部横断道などの道路ネットワークにより、佐久総合病院を中心とする救急医療体制が構築されている。

●地域雇用創出の例
新潟県村上市では日本海沿岸東北自動車道の整備を見越し、航空機内装品の世界的トップメーカーが進出。地域雇用を創出し、地域経済に貢献している。

2.2 国民の安全・安心の確保 1)
わが国全体の橋梁数約70万橋に対し、市町村管理の橋梁数は約52万橋にもおよぶ(全体の75%、国・高速道路管理の橋梁はわずか6%)。道路の老朽化対策を計画的に推進するとともに、技術者不足の地方公共団体へ重点的な技術支援を推進し、平常時・災害時を問わず、安全・安心な道路マネジメントを行う。また緊急輸送道路の強化として代替性の確保、ミッシングリンクの整備、橋梁の耐震化、道路法面の防災対策、倒壊による道路閉塞回避の無電柱化の推進や、少子高齢化社会に対応した道路機能向上などの取り組みを進める。

2.3 日本経済の再生 1)
現在における我が国の高速道路延長割合は道路全体のわずか0.7%、その3割以上は3車線以下である。また、一人当りの渋滞による年間損失時間は約40時間、乗車時間(約100時間)の約4割(欧米主要都市の渋滞損失割合は移動時間の約2割)におよび、その総渋滞損失は年間約280万人の労働力に匹敵するといわれている。現在抱える時間損失、低い時間信頼度の問題を克服し、人流・物流の活性化を図る。また、根幹的道路網を重点的に整備することで迅速かつ円滑な物流ネットワークの強化を実現する。あわせて開通見通しのきめ細やかな共有や、民間投資との連携整備への重点支援などにより、企業の活動を支える質の高いインフラで経済の再生に貢献する。

3.近畿における道路のストック効果 3)

3.1 第二阪和国道沿線
大阪府と和歌山県内陸部を結ぶ第二阪和国道は、平成15年より部分開通を開始以来、沿線に多くの町が形成された。人口推移を見てみると、箱作ランプ付近においては2,874人(H15)から4,697人(H27)へ、箱の浦ランプ付近では283人から1,175人へと居住人口は大幅に増加した。
また、平井ランプ付近の分譲住宅契約戸数では、139戸(H15)から1,602戸(H26)へと約12倍の大幅増となっている。

3.2 阪和自動車道沿線
大阪府から和歌山県沿岸を結ぶ阪和自動車道は平成14年に御坊市まで開通し、平成26年には南紀田辺まで延伸した。道路アクセスの向上による白浜町への外国人観光客の増加は著しく、平成14年では約8千人であった外国人観光客は、平成26年には約8万人(約10倍)となった。また、アクセス時間の短縮により長期滞在が可能となったことから、日帰り客一人当りの観光消費額は平均4,154円(H14)から10,819円(H26)に増加した。

3.3 京奈和自動車道沿線
大阪・名古屋などへアクセス性を向上させた京奈和自動車道沿線では、奈良県内の新規工場立地が10年間で約5倍となった。従業員数100人超の大型工場新設など、地域雇用創出の効果を生み出した。

4.技術者の担う役割

現在大阪においても関西・大阪の成長に必要なインフラの強化、道路や鉄道ネットワークの充実、防災・減災対策として防潮堤の液状化対策、広域緊急道路や橋梁・下水道施設の耐震化、防災公園の整備を順次進めており、当社も現在、地下河川、防潮堤補強、液状化対策を施工中である。何を目的でこの事業を行うか、なぜ必要なのか、どういった効果をもたらすか、近隣住民の理解と協力を得て工事は進行中である。建設業の担い手不足が深刻化するなか、地域住民の協力無くしてインフラを永く維持することは困難な状況となりつつある。建設後も地域住民が建設物に無関心となることなく、今後の維持についても理解と協力を得ることを念頭に、親切・丁寧な対応を心掛けている。

また和歌山県内においては、高速道路の複線化・延伸に向けた工事が進められている。和歌山県内には未だ国道42号のみ、前は海、後ろは山の地域が存在する。海沿いに走る国道42号が津波で冠水・埋没した場合、救命・緊急輸送道路は他にはない。和歌山県南部に家族を持つ一人として、高速道路延伸によるダブルネットワークの早期完成を待ち望んでいる。インフラ整備は、決して無駄ではない。

どなたかが「インフラが社会を決める」と言われたが、それはある意味正しいといえる。とすれば、インフラを構築し、守り続ける私たち技術者の為した結果は、豊かで安全・安心な社会活動や国民生活に大きく影響を与えていることになる。さらに加速する人口減少・少子高齢化、首都圏への過度な人口集中問題など、わが国が抱える課題克服への施策には、技術者の貢献無くして実現しない。これら状況を克服し、安全・安心で豊かな未来の構築へと真っ先に貢献できるのは、私たち技術者をおいて他にはいない。ゆえに技術者の担う役割は重く大きく、その成果は建設資産としての価値に大きく影響する。自身の成果は、効果をもたらす計画であったか?強靭な社会基盤を残せたか?人命は救助できたのか。我々技術者は過去から学び、未来に向けた多くの最善策をまちに、この国に提言し、我々にしか実現できない結果で社会に貢献することが可能である。それぞれの技術と人間力を以て強靭なインフラの形成に挑み、100年の耐用年数で期待に応える技術者が、この国で一人でも多く活躍されることを期待する。

 

5.おわりに

相次ぎ露見する建設工事の不祥事に鑑みて、ここまであえて「技術士」に特定することなくすべての技術者へと述べてみた。技術士に限らず自らを「プロフェッショナル」と自覚するならば、技術者が担う重責と役割に自負を持ち、それに恥じない成果で期待に応えたい。でなければ、たとえ技術士の称号を手にしても真の『プロフェッショナル・エンジニア』であるとは言えない。

おそらく、自らの力量不足から最高水準に並ぶ結果に至らないことは多い。しかし自分を顧みて言うならば、その時々に置かれた状況の中で社会的重責を自覚し、全力で取り組んだ結果であることは間違いない。自らの不足をそこで学び、また次の成果へと、さらにその技術と「思想」は次世代へ、繋いでゆくことが大切である。品質は間違いなく技術者の意思によって決まる。思想も含めて次世代に伝えることが重要である。

余談であるが、ゴールデンゲートブリッジ建設のチーフエンジニア、ジョセフ・ストラウスは、橋の寿命はどのくらいかと質問され、「手入れさえすれば永遠に」と答えた4)。自分達の造る橋は永遠に保つ、そう答えた技術者である。完成からすでに79年。ジェセフ・ストラウスの思想と強い意志のもとに、ただの橋を造っているのではなく「現代技術史上最高の橋」を造っているという確固たる自信に満ちた労働者たちの建設したこの橋は、今も丁寧に修繕を続けられ、メンテナンスにかかわる者も皆、その仕事を誇りに思っているという 4)。この橋が与えた経済効果は計り知れず、建設当時の技術者の思想とその意志は79年経過した今も変わらず受け継がれているようだ。

我々の造り、守る構造物がたとえシンボリックな存在ではなくとも、いのちと暮らしを支え、豊かで安全・安心な地域社会の実現に技術者が貢献しているのは間違いない。一部の不祥事に対する世論に失望することなく、『プロフェッショナル』としての信念に沿った決断を。そして、与えられた使命を全うされることを「技術士」の一人として願う次第である。

まち・ひと・しごとを繋ぎ、そして活力ある日本社会を次世代へ。我々の技術がそれを可能にする。

<引用文献>
1)平成28年度道路関係予算概算要求概要
(平成27年8月国土交通省道路局,国土交通省都市局P1,3,13,15,17,24,28)
2)まち・ひと・しごと創生法の概要
(www.kantei.go.jp/jp/headline/chihou_sousei/pdf/siryou1.pdf)
3)国土交通省近畿地方整備局道路部HP
「道路のストック効果第二阪和国道,阪和自動車道,京奈和自動車道」
4)http://goldengate.org (橋の設計と建設の歴史:建設作業,橋を守る)

<参考文献>
5)大阪府平成28年度都市整備部運営方針

河野 千代
(こうの ちよ)
技術士(建設部門)

近畿本部建設部会 幹事長
協賛団体強化特別委員会 委員
会員拡大委員会 委員
科学技術支援委員会 委員
株式会社久本組 企画支援室 室長

「もの造り」の現場から~ひと手間の積み重ねが高品質を導き出す

河野 千代 技術士(建設部門)

構造物は人が造るもの。多くの人の手による作業の積み重ねでモノを造る。基本を大切に、全ての工程で今できる限りの工夫を。誰もができる簡単な「手間」の積み重ねが高品質を導き出す。それには関係者全員のマネジメントが重要となる。ここでは、作業員を含めた全員参加型「もの造り」について報告する。

キーワード:マネジメント、全員参加、考える機会を与える、目的と役割、人が品質を左右する

1.はじめに

「良い材料」も「いい機械器具」も、それを扱うのは「人」である。人がこれら機能を十分に発揮させることができるかどうか、それが高品質に繋がるカギになる。
コンクリート構造物の築造には多くの人が参加する。鉄筋・型枠の組立、打設前の清掃、施工性能の良いフレッシュコンクリートの製造、その運搬、圧送、打込み、締固め、養生など、工事管理者が直接作業するわけではない。管理者の指示や提案を直接作業者が理解し、実行し、そしてそのフィードバックを次回作業に生かすことが重要である。できることに限りはあるが、基本を大切に今できる工夫は何かを考え、ひと手間を積み重ねて結果を省みる。
目的意識をもって作業に取組み、何を得るための作業であるかを認識し、共有することが大切だと考えている。ここでは、関わる全員参加型「もの造り」の一端を報告する。

2.良い環境とチームワークの形成

高品質を目指すには、現場に良い材料を提供し、作業に良い環境を整え、品質向上に向けて目標に向かい成果を上げようとする協働作業(チームワーク)を形成することが重要である。作業に関わる全員がそれぞれの役割を認識し、考え、協力し合い、一つひとつ確かな手間を積み重ねる。正しい知識と役割分担、仕事の流れについて共有し(手戻り・重複作業の回避)、品質向上に向けて全員が参加している認識を持てる取組みを行っている。また、誰でも分かる指導や視覚・聴覚で誰もが確認できる現場づくりを心掛けている。

1)手書きすることで考える機会を与える
作業や安全についての確認事項は何でも手書きで作成する。人はとにかく忘れる、聞き流す。誰が指示したのか、誰が担当であったのか、うやむやになってしまうことも少なくない。書くことにより一度考える機会を与え、作業の目的と責任の所在や自分の役割を認識させる。目的や担当者(責任者)を明確にせず作業に取り組むより、姿勢に変化が現れる。

① 作業手順書作成前打合せ記録
各作業における作業手順の作成について、元請から下請に対する指示と要求事項を記入したものである。作業が変わる毎に作成し、職長との事前打合せに使用する。後日、直接作業者はこの記録に書かれた指示や要求事項を確認しつつ、作業手順を作成する。指示や要求事項に対し、抜け落ちのない手順書が作成される。

② 個別工事作業手順書(図-1)
①の事前打合記録を踏まえ、作業に関わる全員で、作業が変わる毎に作成する。使用資機材、作業概要、各作業手順のポイント、リスクアセスメント、加えて各作業の点検方法など下記について記入することで、担当者(責任者)や目的を明確にする。
その点検は、
・誰が ・いつ ・どこで ・なにを ・どのように ・何のために
行うのですか?
災害防止対策は
・誰が ・いつ ・どのように
行うのですか?
これらの作業手順書は職長だけで作成するのではなく、作業に関わる全員で意見を出し合って記入する指導をしている。どこの現場も同じ作業だからとコピーアンドペーストではいけない。
また、これら作業手順書の受領後は元請け職員全員が目を通し、個々の指示事項を書き込む。誰がどのような指示をしたか一目で分かるよう、個々の指示事項記入のペンを色分けする。確認のサインだけをするのではなく、現場を管理する全員が作業手順をしっかりとチェックしなければ手順の違いにも気づかない。つまり、作業管理はできない、ということになる。

③ 環境・安全ミーティング報告書
日々のKY活動として、職長だけでなく作業に関わる全員がその日のコミットメントをそれぞれ記入するものである。全員が当日のスローガンを掲げ、作業に取り組んでいる。またさらに、リスクアセスメント評価により作業ごとの危険度低減方策をたて、安全意識の維持に努めている。

④ 安全巡視記録
元方安全衛生責任者、総括責任者、各職長それぞれが毎日2回実施する巡視点検記録である。点検を充実させることで、危険を回避する。是正箇所を発見した場合は指導カードをその場で切り、処置されたカード記入内容と共にその是正を確認する。私たち管理者は、安全に作業に取り組むことのできる環境の維持に努めなければならない。 

⑤ 午前・午後休憩後の安全指導
午前・午後の休憩後は職長から作業員に向け、安全指導の時間を設ける。作業時に気付いた危険(品質を含む)について指導を行う。1日2回の安全指導について書く責務を与えることにより、職長の管理(気付き)に違いが現れる。また、作業員はこれを了解し、署名する。

⑥ 非定常作業手順書
これは、急に予定外作業が必要となった場合に作成する。作業を数時間止め、必ず手順打合せを行ったうえ、予定外作業を行う。非定常作業は事故(品質を含む)発生の可能性が高く、事故は数時間止めた作業損失とは比べものにならない損害をもたらす。非定常作業前の手順作成と安全確認は怠っては ならない。

⑦ 生コンクリート受入試験総括表(図-2)
コンクリート打設当日は、受入品質試験結果をこの用紙に順次手書きで記入する。特に橋脚のコンクリート巻立てなど、スランプ確認は全車について実施しており、受入検査は数人が対応する。
複数の目で品質に変状がないかを管理するのが目的である。ちなみに、なぜスランプ確認を全車実施するのか。現場に提供する材料として、全ての使用資機材定期検査に立会し、JIS に囚われない施工性能の良い配合を選定する。打設時期によってはあらかじめ実機で練混ぜたうえ配送のスランプロスを確認する、打設当日1台目出荷前には必ずプラントで性状を確認する、朝一のトラブルを考え最初の2台は出荷間隔を少し長めにするなど、私たち管理者は、プラントと共に配合修正した「品質と施工性能の良い」フレッシュコンクリートを常にできるだけ変状無く現場に提供したいと考えている。試験結果が「許容値内であれば良い」のではなく、品質の変動・異常にいち早く気付き、その原因を突きとめ、必要な場合は直ちに処置を講じる。その判断基準として全車スランプ試験を行っている。単位水量の確認もこれに他ならない。
また、アジテータ車の車番管理については、同じ車番で品質変動が続くことがないかを確認するものである。これらは人が気付き、判断し、行動に移すことで意味を成す。

2)全員参加の周知会
全ての作業について、関わる全員が正しい知識を共有し、「いいものを造る」という目標に向かって親切丁寧に取り組むことが大切である。作業前には、関わる全員の意見が入った手順書をもとに全員参加の周知会を行う。(図-3,4)
扱う材料も打設条件も、現場毎に特性があり違いがある。作業のポイント、作業分担と責任者、潜む危険と点検方法とその対策について再確認を行い、作業全体の流れを把握する。「指示だからやらないといけない」という義務感だけで作業をこなし、結果に関心を持たない「手段の目的化」とならないよう、なぜその作業をしているのか、それによってどういった変化が起こるのかを必ず交えて周知する。

また、疑問点や気付いたことなど誰でも気軽に質問できる雰囲気作りを心がけ、傍聴人は作らない。こうして全員が発言し、目的やそれぞれの役割などを共有することで、「安全で高品質なもの造り」への参加意識とチームワークが生まれ、作業に取り組む姿勢が変わると考えている。

3.ヒューマンエラーを避けるには

人は誰でも時間の不足や疲労につれて「やらなくても大丈夫。しかしやった方がいいのでやりましょう」という作業を省きたくなるものである。また、「親切丁寧」は雑になり、ヒューマンエラーも発生する。ゆえにこれらを回避できる無理のない打設計画が必要で、一人の作業量を考えた人員配置と余裕ある時間配分を心掛けている。時間が余れば人は、面倒でも決められたことは何とかやるもの。また、多種多様に開発されている高機能材料や器具の力を借り、できるだけ作業を楽にしてヒューマンエラーやムラを減らす取組も合理的である。しかし、誰でもできる少しの工夫だけでも効果はある。

1)鉄筋曲げ加工部の防錆処理
鉄筋端部、曲げ加工部は錆びやすく、コンクリートとの付着を阻害する恐れがある。しかし、打設前の錆び落としは、型枠が汚れる、ムラがでやすい、 手を抜きたい。あらかじめ、端部・曲げ加工部に防錆処理を施せば、この作業は必要ない。

2)型枠の締め付けチェックとゆるみ止め
フォームタイの座金に「くさび型」は使用しない。くさびがずれて緩み、躯体に段差ができないよう「ねじ式」を使用している。しかしこのねじ式も締め忘れがあっては意味がない。ゆるみ止めも兼ねて、締め付け完了後には座金にテープを巻いていく。テープが巻かれていない座金は締め付けがまだだと一目で分かる。(図-5)

3)鉄筋に養生テープ
コンクリートの打設時は、次回打設部の鉄筋にコンクリートが飛び散り付着する。打設前にはできるだけキレイに清掃するが、これも面倒なムラの出やすい作業に違いない。面倒を省くためにどうするか。付近の鉄筋に養生テープを貼り付ける。巻くのではなく、板海苔のように貼り付ける。ちぎって貼るだけの作業である。打設後はテープを剥がす作業だけとなり、さすがに手を抜く人はいない。鉄筋が乾燥した状態であれば鉄筋袋を使っても良い。しかし雨天後など、鉄筋表面の状態により、被せると却って錆が発生することもある。私は、コストも安い養生テープで十分だと思う。
さらにその他、打込みの工夫、打継ぎ目の工夫、養生の工夫と全員の確かなひと手間は積み上げられ、完成に。紙面の都合上、全てを紹介することはできないが、その成果を確認したときの喜びは筆舌に尽くしがたい。またそれは私たち管理者だけではなくすべての協力者に及ぶ。こうした貴重な時をいただいたことに感謝している。最後に、これら構造物は有害なひび割れの発生も無く高品質で綺麗なものであった。そして、発注者より良い評価をいただいた。

4.おわりに

まだ高機能材料も機械器具も無いその昔、親切丁寧に造られたコンクリート構造物は今も健在で、「親切丁寧」の大切さを教えてくれる。技術やデジタルの発達した現在でありながら、ここで報告した一端は昔とそう変わらない「人による単純で簡単」な作業である。しかし技術やツールが発達した現在も、行動に移すための判断は人が行い、そしてその行動は人が主体である。それぞれの役割を持った「人」が品質を左右し、「人」のマネジメントが品質の行方を決めるといえる。そこには、技術者(管理者)の正しい知識が必要なのは言うまでもない。
こうして基本に立ち返って考える機会を与え、行動に移し、見て、聴いて、気付いて、また考えて次に繋げるスパイラルアップは、技術そのものである人の感覚(勘)を育て、そうして暗黙知は継承されていくものだと私は思っている。
この先も、完成した構造物が永く社会に貢献してゆくことを信じ、一生懸命な「もの造り」に関わり続けていけたらと思う。

河野 千代
(こうの ちよ)
技術士(建設部門)
株式会社 久本組   企画支援室 室長
コンクリート診断士 /コンクリート主任技士

e-mail:kouno@hisamotogumi.co.jp
 
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