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技術士が叶えるSociety5.0 ~アントレプレナーシップ(Entrepreneurship)を発揮して~

河野 千代(建設部門)

Abstract

In response to the “Society 5.0”, the Japanese government’s new strategy for national growth and sustainability, the application of Information and Communication Technology such as IT and AI to the Ministries’ policies has been in full blossom to cope with the aging society, the energy diversification, and the economic loss reduction by mobility and connectivity improvement.
However, the key player achieving brilliant futures of super-smart city is not ICT, but is human beings capable of science management and operations.
The comprehensive power by the Institution of Professional Engineers Japan established with professional engineers over 21 engineering fields could provide added value, which no other organization can.
To enhance the power of the IPEJ as a technology platform, more diversification with teeming entrepreneurship unrestrained by conventional regulations and frameworks, as well as more improved organizational cultures allowing challenging spirits should be essential.

1.前書き

課題解決と未来創造の視点を兼ね備えた我が国の新たな国家成長戦略「Society5.0」では、高齢化対策、Energyの多様化、Mobility の充実による経済損失の削減と地域活性化など、IT化、AIの活用により持続可能な人間中心の社会への変革を目指している。とはいえ、「課題解決」と「経済的発展」を両立する「人間中心のSuper-Smart city」へと未来を切り開くのは、科学を駆使し社会をManagementする「人」であり、ITやAIではない。
ここでは、政府が掲げる「Society5.0」の社会実装に向けた国策と、日本技術士会近畿本部が始めた小さな活動「技術士活躍の場拡大に向けた産学官との連携強化活動」から得たKeywordを紹介し、課題先進国からの変革を目指す我が国における技術士の位置付けと今後について述べてみたい。

2.Society5.0とは

政府は、「科学技術基本法」(1995年制定)に基づき、長期的視野で体系的かつ一貫した科学技術政策を実行するための「科学技術基本計画」[1]を策定し、此れを受けた各省それぞれの科学技術政策が進められている。現在、2016年度~2021年度「第5期科学技術基本計画」が策定され、その施策の一つとして盛り込まれたのが「Society5.0」である。
Society5.0は、Technologyを製造業で活用し、経済発展を目指すIndustry4.0とは少し違う。単に最先端技術の産業への適用では無い。IoT、Bigdata、AIなどの基盤技術と実社会空間を高度に融合させることで、経済発展と社会的課題の解決を両立する「人間中心のSuper-Smart City」を表す社会像である。物理的空間の膨大なDigital情報を仮想空間に集積し、BigdataをAIが解析する。さらにSociety5.0では、その解析結果がNeedsを踏まえた様々な形で人々に還元されるのである。これまでの情報社会では、溢れる情報の中から自分に必要な部分を見つけ出し、分析・判断する作業が必要であった。これからの社会は、通信技術の発達と膨大なDataを集積・処理する技術により、様々な知識と情報が新たな価値を生み出す社会となる。IoTで全ての人と物が繋がり、様々な知識や情報を共有し、人工知能により必要な情報が必要な時に提供され、AI、Roboticsによる重労働作業の自動化が日常となる。また、AI・Roboticsによる代替え業務が増えることで少ない労働力で生産量を高めることが可能となり、人は創造的な仕事へと移行する。多くの人は「生活する為の労働」から解放され、より「自己実現」「生きがい」の為に働ける環境が訪れると共に、年齢・性別・地理的制約とEnergy・環境問題、犯罪や災害への不安など、様々な課題を解決する社会への変化が期待できるとされている。(図-1)
その一方で、現在の我が国は情報科学・AIに関する高度な知識と技術を持つ人材数が限定的であることや、科学を駆使し、Management可能な人材の育成とCareer Change・キャリアアップ(Career enhancement)体制の構築が不十分と言わざるを得ず、専門人材の育成とリカレント(Recurrent Program)を含めた教育体制の充実が喫緊の課題の一つとして挙げられている。

3.Society5.0の社会実装と破壊的Innovationによる生産性革命[2]

2018年6月、我が国の新たな成長戦略として「未来投資戦略2018(「Society5.0」「data駆動型社会」への変革)」[3]の閣議決定が成された。未来投資戦略2018では成長戦略推進の枠組みとして、様々なPlayerの参画を促しつつ、既存の組織・産業の枠を越え、変革を阻む「壁」を突破する具体的Processの構築を重要課題に掲げている。直ちに前進させるべきもの、「現場」を変えるべきものについては、来年度予算、税制改正、規制改革に反映させると共に、必要な制度・組織・人材面の基盤作りを迅速に進める方針である。
同時に、「産業競争力の強化に関する実行計画(2018年度版)」[4]では、規制緩和特例措置の導入など、此れ迄に無い革新的技術の社会実装に向けた下記のような環境作りで実現を目指している。(以下一部抜粋)

(1)規制の「Sandbox」を制度化(図-2)
事業者が参加者や期間を特定し、関連規制が直ちに適用されない環境実証が可能なProject Type Sandbox」を創設。2018年6月に開設されたRegulatory Sandbox in Japan新技術等社会実装推進Teamでは、社会実装に向けたprojectの認証などの運用を進める[5]

(2)第4次産業革命の社会実装と生産性が伸び悩む分野の制度改革等に取組む
高度な自動走行に向けた制度整備の方針策定をすると共に、健康、医療、介護のBigdataを連結・分析するPlatformの詳細設計を進め、「遠隔療法」について必要な規則を包括する指針を整備。

(3)Innovation促進基盤の抜本的強化
若手研究者が研究費を獲得しやすくなるよう改革を行うと共に、経営力向上の最適経営と教学の役割分担促進の仕組みを構築。

(4)Society5.0の社会基盤を整備
高い民間需要のある官保有の情報を政府横断的に公開すると共に、協調領域の情報を共有する事業者の認定など行う仕組みを創設。

(5)成長分野への人材移動と多様で柔軟な働き方の促進
労働移動支援助成金等を人材のキャリアアップ(career enhancement)、キャリアチェンジ(career change)に重点化して再構築し、社会人の実効的なITとData 活用能力の標準装備等を実現。

(6)ベンチャーサポート(Venture Support)
産業革新機構の機能強化、Venture Business Patentの超早期審査体制の確立と、外国人起業家のさらなる受け入れ拡大方策として「Startup Program(仮称)」を実施。

(7)行政からの生産性革命
行政内部の業務手順(工程)を徹底的に見直す為の「Digital Government実行計画」(Only Once&One stop)を実施すると共に、行政手続費用20%以上の削減、Blockchain Technologyを活用した政府調達や裁判手続等のIT化を進める。

その他、此れ等方針を受けた各省における実行計画の詳細は、各省HP[6]でご覧いただきたい。政府が求める「既存の規則に囚われない社会構造の劇的変化をもたらす破壊的Innovation」の実現には、規制・制度の大胆な変革と、技術や産業の壁を取払い、Seedsを呼込み結び付け、事業へと繋げるPlayerの存在が鍵となる。

4.Society5.0を実現に導く人材とは

文部科学省「Society5.0に向けた人材育成」[6]では、新たな社会を牽引する人材(能力)として、下記の5点が挙げられている。

(1)技術革新と価値創造の飛躍知を発見・創造する人材
(2)成果と社会課題を繋げ、Platformをはじめとした新たな事業を創造する人材
(3)課題解決を指向するするEngineering
(4)多くの人を巻き込み牽引する社会的Skill&Leadership
(5)多様性の尊重と持続可能な社会を志向する倫理観や価値観
技術士は、科学技術分野をほぼ網羅した21部門が存在し、国が認める「科学技術に関する高度な知識と応用能力、高い倫理観を備えたProfessional Engineer」として産学官それぞれに存在する。また、技術士の資質・能力はSociety5.0の社会実装を目指す全てのProjectに関連すると共に、前述の「新たな社会を牽引する人材(能力)」として貢献が可能である。戦後の荒廃する日本復興と発展にTop Runnerとして注力する存在として生まれた技術士は、技術と技術を結び付け、成果を産業界へと繋ぎ、倫理観を備えた課題解決と経済発展を叶えるKey Playerとして期待される存在ではなかったか。
再び山積する課題の打破を目指した「既存の枠に囚われない社会構造の劇的変化をもたらす破壊的Innovation」の実現は、産業毎に分かれた部門単体の技術力では成し得ない。技術士21部門の総合力は、これまでの延長線を大きく越えた劇的変化をもたらす可能性を秘めており、異分野を繋ぎ、Riskにも果敢に挑戦するEntrepreneurshipとIPEJ-Platformとしての機能充実が約8万9千人の「技術士」と「公益社団法人日本技術士会」、そして我が国の今後に影響を与えることは間違い無い。

技術士は、我が国のみならず世界平和に貢献可能な人財として位置付けられているはずである。

5.新しい取組み

様々な部会活動に継続して参加することで、Professionalな資質・能力を備えたEngineerとして国が認めた資格であるにもかかわらず、知名度が著しく低い部門の存在など産業界での現状も見えてきた。「技術士」は、豊かな未来創造へと貢献可能な資質・能力を備えながらもKey Playerとして確立された場はそれほど多くは無い。様々なPlayerの参画を促しつつ、既存の組織・産業の枠を越え、変革を阻む「壁」を突破する具体的Processの構築が我が国成長戦略の重要課題であるならば、技術士の存在意義は此処にある。部門の壁を取り払い、異分野の技術と産業に目を向け、技術士の可能性を社会に伝え、貢献する。産学官との連携強化により技術士全部門の新たな総合力を様々な分野で発揮することで、社会変化の更なる加速と質の向上をもたらすことが可能である。Communicationの機会が増える度、新たな挑戦の糸口は見えてくる。
2017年度より日本技術士会近畿本部では、「技術士活躍の場拡大に向けた産学官との連携強化活動」として技術士のPR、需要・課題の聞取りを兼ねた各界代表者との意見交換に取組んでいる。
私が深く関わる建設産業は、土木・建築工学に留まらず、電気電子、情報、機械、金属、化学、環境・衛生他、技術士21部門に該当する多分野の技術と技術者で成立つ産業である。国土交通省では、高齢化、担い手不足などの課題解決と経済発展を目指した「生産性革命31」[8]「Society5.0に向けた建設分野の社会実装」[6]に掲げた重点施策により、様々なPlayerの参画と技術融合を含めた新技術の発掘・社会実装を可能とする環境整備が進められている。特に、新技術活用に必要な制度改正と現場導入など、此れ迄に無い迅速かつ柔軟な対応に驚きを隠せない。例えば、革新的河川技術では、官主導のOpen Innovationで企業間の協働を促進し、約1年という短期間での社会実装を実現させている。[6]
【事例1】危機管理型水位計:全国1万箇所の設置に向け予算措置済み
【事例2】水中Laser drone:測量Manualを更新、現場導入へ
【事例3】全天候型drone:製品化済み、全国地方整備局の配備へ
このように、産学官民全ての参画と技術融合・新技術発掘の機会を促すPlatformとして、2016年11月「インフラメンテナンス(Maintenance and repair of infrastructure)国民会議」[9]を、2017年1月には「i-Construction推進Consortium」 [10](図-3)が設立され、地方自治体の支援を含めた運営が成されており、日本技術士会近畿本部では、複数部門の技術士がオブザーバーとしてインフラメンテナンス(Maintenance and repair of infrastructure)国民会議に参加している。現在、公益社団法人日本技術士会としてインフラメンテナンス(Maintenance and repair of infrastructure)国民会議への登録の検討が進められていることと思う。技術士として参加の場を増やすことで各方面との信頼関係を深めつつ、技術の活用と技術審査、規準・制度設計への技術士参画を目指したい。現在、近畿地方整備局、近畿経済産業局、大阪府、教育・研究機関、商工会議所との連携強化と技術士活躍の場拡大を目指した手探り活動を進めているが、活動で得られたkeywordをより多くの技術士に伝え、今後、技術士としてどのように貢献していくか「技術士」の責任と手腕が問われていると考えている。

5-1.国土交通省近畿地方整備局長との対談企画
「技術士活躍の場拡大に向けた産学官との連携強化活動」第1弾として2017年11月、「技術で支える日本の活力を関西から」を主題に国土交通省近畿地方整備局長との対談を開催した。対談では、社会基盤整備の意義とInnovationによる労働生産性の向上や、担い手確保における女性活躍などの認識を共有し、21部門から成る技術士の総合的な「可能性」を有効活用することや、当会と近畿地方整備局との意見交換会の開催など、今後のさらなる連携について確認することができた。(以下一部抜粋)

【河野】日本技術士会は21部門の技術士が一堂に会している。安全・安心で持続可能な社会の実現、担い手不足の解消や生産性向上の実現を目指した個々の取組みには、各技術部門に関係するものばかりである。中立的な立場で対応可能な各種分野の人材が所属しており、委員会、Projectなどで活用いただきたい。また、社会基盤整備における「会計監査」同様に、技術的な信頼を得るための「技術監査」を公益確保を本分とする21部門の技術士に行わせる仕組みをつくり、記録改竄や不正防止への技術士活用を期待する。
【池田局長】異なる分野の技術が化学反応してInnovationを生み出し、労力を要する材料などに革新が起これば、次世代の社会基盤整備にも繫がる。製造現 場の不祥事については、IoTを活用した現場管理なども考えられるが、管理者自身が現場を見回る姿勢を保ち、「技術士」と共同作業の形で現場管理を実現できればと思う。

5-2.国土交通省近畿地方整備局と9部門技術士との意見交換会

2018年3月、国土交通省近畿地方整備局と日本技術士会近畿本部9部門代表技術士との意見交換会開催が叶う。当会は9部門の代表技術士が出席することから、近畿地方整備局から技術調整管理官をはじめ、総括技術検査官、工事品質調整官、情報通信技術調整官、機械施工管理官、河川情報管理官、道路情報管理官、近畿技術事務所総括技術情報管理官など様々な部門から列席された。
建設部門の技術士は発注時の一部参加条件にも明記され、十分認知されている一方で、建設部門以外の技術士についての認知度は低い。今回は、建設産業にこれまで関わってこなかった技術士も多数参加しており、第1回意見交換会は近畿地方整備局、日本技術士会所属技術士双方の理解を深める「勉強会」として開催された。近畿地方整備局からは主な施策を、当会からは9部門の技術士それぞれの技術や意見(表-1)を紹介した結果、(能力)技術について非常に興味深い印象であった。次回は、建設産業における「Needs」を近畿地方整備局より事前に提出していただき、技術士としての「Seeds」を準備して意見交換を行なうことで閉会となった。
なお、意見交換会の開催に至る迄、建設産業の現状と新たな取組みを理解する説明会、近畿地方整備局への提案事項の検討会、1名につき3分限定のPresentation資料の作成など、先が全く読めない状況の中で技術士代表の皆様には多大なご協力をいただいた。

後日、近畿地方整備局長、企画部長に意見交換会の報告として9部門技術士の技術と意見を紹介した。21部門の存在とそれぞれの技術に強く興味を示され、活躍できる部分は沢山有ること、インフラメンテナンス(Maintenance and repair of infrastructure)国民会議やi-Construction推進Consortiumへの参画、技術を関係各所に紹介して良いか、などのお話しをいただいた。このようなご縁から、後に開催された日本技術士会近畿本部建設部会主催「第6回業績・研究発表会」では、特別講演として近畿地方整備 池田局長自ら「関西のインフラ(Infrastructure)の現状と将来・生産性革命(i-Construction)の取組み」についてご講演いただくこととなる(写真-3)。経営工学部門、繊維部門、電気電子部門、化学部門など、多部門の技術士が参加される中、建設産業の現状と今後の展望について説明すると共に、各分野の技術の参入に期待すると述べられた。

5-3.経済産業省施策説明会

近畿地方整備局との意見交換会と並行して、近畿経済産業局に企画書を提出する。意見交換会に先立ち、技術士が経済産業省の施策を理解するための説明会として2018年4月、日本技術士会近畿本部会員向け「経済産業省施策説明会」を開催し、施策各担当者からご説明いただいた。事業説明では、申請に掛る要点や、技術士が貢献可能と思われる部分が確認できた。

(1)戦略的基盤技術高度化支援事業(Strategic Foundational Technology Improvement Support Operation)
地域中核企業と中小企業、大学・公設試験研究機関等の連携を促進し、地域に波及効果を及ぼす取組みを重点的に支援することを目的として、事業化戦略の立案から研究開発、販路開拓まで一体的に支援する事業である。研究開発計画書の作成段階で、中小企業基盤整備機構のAdviserに相談することを推奨しているが、計画書作成の要点として、以下の点を述べられた。(以下一部抜粋)
・研究開発方法について「従来の研究開発方法との違い」「どのような技術的課題があり、その課題を本計画の研究開発方法でどう解決するか」など、目標を達成するための「研究開発手段」、「手法」、「実施体制」を具体的かつ明瞭に記載する。
・技術的目標値は、可能な限り定量化した客観的な指標を設定。
・研究開発の予定表(研究項目毎に取組む年度や目標達成の年度等)を明確に設定する。

以上の要点から、技術士の資質・能力に該当する得意分野であることが分かる。また、補助事業期間では中間評価委員会による中間評価が行なわれ、計画書作成のAdviser又は中間評価での貢献が可能と思われた。

(2)関西ものづくり新撰
中小企業を対象に「優れた」「売れる」製品や技術を表彰し、認知度と信用力を高めると共に国内外への積極的な情報発信や販路開拓を支援することでBusiness拡大に繋げるための取組みである。一定期間募集した後、選定委員会による審査を行ない表彰する。

(3)Service等生産性向上IT導入支援事業
製造業や建設業などを対象にしたIT Package softの導入支援として、今年度も補助対象として10万~15万社を見込んでいる。手続きは、①IT導入支援事業者とその構成員「IT Vendor」と共に提供するIT ToolやApplication等を公募・登録する、②IT導入支援事業者が中小企業等に代わり、交付申請書等を提出、③審査後、中小企業等に対し補助金交付を行なう流れである。
当事業では、対象の企業様について技術士に目利きの役割を担っていただきたいとのことであった。

(4)Venture・中小・中堅企業向け支援事業(NEDO)
当事業における審査の特徴として、技術評価と事業化評価は50:50。しかしながら、技術内容と比較して事業化の検討と記載に乏しい申請書が多く、事業化評価が採否に影響するといえる。経営者や営業担当者と連携して事業化計画を明確に記載することが重要である。また、技術評価と事業化評価の審査員は別であり、技術評価者には教授や技術士もおられ、事業化評価は銀行関連の方が行なう。技術評価については全者優秀であり、ほとんど差がつかないのが現状とのことであった。
申請書の骨子は、①背景/課題、②技術開発の概要、③根拠となる技術、④技術開発開始から事業化に至るまでの筋道の4項目から成る。①背景/課題を確りと書かれている企業は多いが、評価は本題の上記②③④である。さらに、申請書作成時の留意事項として以下の点を挙げられた。(一部抜粋)
・最初の技術開発概要欄で評価者の心を掴めるか?
・技術領域等の枕詞は不要。技術の要点を単刀直入に書き始める。
・提案する研究計画と自社の事業化Road mapとの整合性。
・Seedsの素晴らしさ、他社(他の研究)との差別化を強調する。
・研究代表者は心を鬼にして査読。判らない箇所は誰が読んでも理解できるまで修正する。
・章の名称、項目の名称は全文通して一致していること。
・役割分担を明確に。
・評価者が今何を読んでいるかが判るよう、執拗に主語を入れる。
ここでは、技術士の皆様に申請書作成のConsultingを担っていただきたいとのことであった。

2018年7月、部門代表技術士との議論の結果、「Consulting」、「Adviser」、「評価委員会への参加」など、技術士貢献についての提案事項と共に、「申請構成員」や「Consulting」、「Adviser」は企業とSetであることが多く、技術士が企業との補助金事業にどの様にして入り込むかの課題を提出した。これについて、近畿経済産業局からのご提案は以下のとおりであった。(一部抜粋)
・ものづくり支援について、中小企業支援機構にAdviserとして登録を検討してはどうか。
・中小企業への施策紹介を担っていただきたい。また、「推薦機関として指定」への働きかけも検討されてはどうか。
・Adviserや構成員として参画されることについて、例えば、中小企業支援窓口で需要を確認する、企業OB団体に接触してみる、士業Networkに会として参加し、委員会などにも参加を検討されては如何か。
・事業では既に技術士が活躍されており、資質・能力は理解できている。貴会としてどのような関わりが可能か、ご提案をいただきたい。

今後、これらについて、実行へと可能な限りの検討を続け、全国展開を目指したい。

5-4.立命館大学・京都大学教授との座談会

知識と経験、能力活用の場として、外部委員会等への参画も見えてきた。近畿地方整備局より、委員会Observerとしての参加打診をご提案いただいたが、有識者の方々にも「全部門技術士」について理解を深めていただく必要がある。
2018年6月、「社会基盤整備における生産性革命」を主題に、建設産業各方面でご活躍中の建山和由教授(立命館大学理工学部,写真-5)、木村亮教授(京都大学大学院工学研究科,写真-6)との座談会を開催した。日本技術士会近畿本部から建設部門、機械部門の代表者が参加し、Innovationが築く社会基盤整備の今後と技術士活躍の可能性について意見交換を行った。詳しくは、隔月誌「きんき」[11]をご覧いただきたい。(以下一部抜粋)

【河 野】ICT活用では、実際に現場でMachine Control技術を備えた機械など使用した結果、最後の微調節はやはり人が操作する必要がある、monitor画面を見ながら締固め機械の運転をするので機械周辺の人に気付かない(余所見運転の連続)、危険回避のため機器周辺にSensorを付けると更に高額になるなどの問題が生じている。機械や周辺機器、Sensorが専門の技術士も存在し、此等の課題解決に貢献可能である。しかし、多部門の技術士がどの様に入り込めばいいのか。
【建山教授】建設産業は総合工学。国交省が規準やManualの変更に積極的に取組んで、新しい技術の活用を始めた。結果、これまで建設産業に関わりの無かった分野の企業も「我々も何ができるだろうか」と非常に興味を持っておられ、可能性は広がりを見せている。
【木村教授】技術士は21部門。例えば、電機産業で活用されている技術を建設産業に持ち込むなど、他分野の技術を建設産業に送り込む目利きの役割を技術士の方が担い、現場を知る建設部門の技術士が、他部門の技術士の能力や技術を建設産業に繋ぐ役目を担えばいいのでは。上手く繋ぐことができると思う。
【建山教授】柔軟な対応で新技術の活用を始めてはいるが、「規準や手順を満たす為にどの様な技術を使うか」については全く確立されていない。例えば、Droneについても「使い方」は確立されておらず、それぞれ独自の活用をされている。「様々な技術をどの様な現場でどの様に使うか」について検討しているが、現在手探り状態である。様々な技術分野の技術士の方から、活用法や技術の応用について意見をいただけると有り難い。もう一つは3次元の活用について。3次元dataは扱いが難しい。dataを取るために、例えばDroneで航空測量や、Laser Scannerなどを使用する。機器もSoftwareも高価かつ、Softwareの扱いが難しく、広がり難いのが現状である。誰でも使い易い価格設定と汎用性が現在の課題として挙げられる。

【木村教授】柔軟に新技術の導入が進んでいる分野もあれば、堅い分野も。技術士の方が正しく技術を評価し、世の中に送り込む役割を担っていただきたい。例えば、開発された新技術について、技術士として技術の評価をするのも良いのでは。
その他、お二方より部門横断的な交流の有無について尋ねられ、「新技術や技術融合についての意見交換の場」、例えば震災直後の社会基盤の安全確認作業を如何に短縮するかなど、様々な分野の専門家で議論の場を設け、国土交通省建設技術研究開発助成制度に申請するなど、新たな提案をしていただきたいとのご意見をいただいた。さらに、日本技術士会のように様々な分野の技術者(士)が集まる会はそれほど無く、最大の利点かつ非常に大切な財産が沢山存在していること、建設産業は今、他の技術を受け入れなければ成長が難しい状況であり、活躍していただける部分は沢山ある、など激励の言葉をいただいた。

5-5.インフラメンテナンス(Maintenance and repair of infrastructure)国民会議 近畿本部Forumへ
2018年7月、インフラメンテナンス(Maintenance and repair of infrastructure)国民会議近畿本部第5回ForumにObserverとして建設部門、上下水道部門技術士3名が参加した。Forumでは、事前に出された道路管理者のNeedsについて討論の場が設けられる。地方官庁から出されたNeeds5件について、Workshop形式の討論が行なわれ、技術士3名は「構造物点検における継続的整合性ある点検技術」についての討論で発言の場を頂いた。ここでは、Needsに対するSeeds提供候補者と、技術やknow-howについて助言をする技術者等で討論がなされ、Seedsを提供する技術士だけでは無くAdviserとして貢献が可能である。
翌8月、実証実験報告会、第3回Pitch event、第6回Forumなど二日間にわたって開催され、「海上に漂着したゴミ(rubbish)の測量技術」討論に繊維部門、建設部門の2名、「橋梁・Dam等、足場の設置が困難な箇所の目視点検支援技」に上下水道部門の技術士が参加した。2014年7月に施行された省令・告示によりTunnelや2m以上の道路橋など全て5年に1度の点検が義務化され、地方自治体が抱える膨大な社会基盤の一斉点検が始まった。インフラメンテナンス(Maintenance and repair of infrastructure)国民会議では、地方自治体の点検・維持管理に関するKnow-howの不足、技術者不足が窺える。また、Pitch eventに出されるSeedsの殆どは既に建設産業で活用されている技術が多く、他産業の技術を建設産業に応用することは大変有用であると感じた。様々な産業に属する技術士のSeeds活用についてCoordinatorの役割を建設部門が担うなど、当会議運営事務局からは技術士21部門の新たな貢献に期待が寄せられている。
運営事務局は近畿地方整備局、一般社団法人国土政策研究会など道路管理に 携わる方々で運営されており、技術士の認知度向上と関係各所との連携強化の糸口となることを願っている。

6.後書き

「人」がSuper-Smart Cityの未来を叶え、社会の持続を可能にする。技術士は、単にRobotやAI技術を産業に持ち込むだけでは無く、既存技術と能力の融合により劇的変化をもたらす可能性を秘めている。生物・衛生・環境・応用理学・海洋・航空宇宙・経営工学など、21部門それぞれ専門分野の観点を交えた技術士集団ならではの「人と社会に最善の技術と付加価値創造」が可能である。そこには、全ての壁を取り払い、「従来の規制や枠組みに囚われないRiskにも果敢に挑戦するEntrepreneurship」と「技術のPlatform IPEJ」として挑戦を一層許容した、進化可能な環境形成が必要となる。
社会構造の激動を目前に控え、技術士も変化せずにはいられない。未来は私達、技術士にも託されている。

謝辞 これまでの活動に関わる関係各所のご厚意と、技術士皆様のご協力に心 より感謝の意を表します。

 

<参考文献>
[1]内閣府「科学技術基本計画」(2016.1.22)
[2]内閣府「新しい経済政策package」(2017.12.8)
[3]首相官邸「未来投資戦略2018-「Society5.0」「data駆動型社会」への変革-」(2018.6.15) 
[4]首相官邸「産業競争力の強化に関する実行計画」(2018年版)
[5]首相官邸HP「新技術等社会実装推進Team」(規制のSandbox制度政府一元総合窓口)
  :http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/regulatorysandbox.html
[6]経済産業省「新産業構造Vision」(2017.5.30)
  文部科学省「Society5.0に向けた人材育成」(2018.6.5)
  国土交通省「Society5.0に向けた建設分野の社会実装」(2018.4.12)
  農林水産省「Smart農業の実現に向けた取組みについて」(2018.3.7)
  厚生労働省「科学技術Innovation官民投資拡大推進費 Target領域検討委員会(第3回)説明資料」(2017.3.15)
[7]公益社団法人日本技術士会HP「技術士Professional Engineerとは」:
  https://www.engineer.or.jp/c_topics/000/000009.html
[8]国土交通省「生産性革命Project」:
  http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/point/sosei_point_tk_000021.html
[9]国土交通省HP「インフラメンテナンス(Maintenance and repair of infrastructure)国民会議」
 :http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/im/
[10]国土交通省HP「i-Construction推進Consortium」:
 http://www.mlit.go.jp/tec/i-construction/i-con_consortium/index.html
[11]近畿本部だより「きんき」:https://www.ipej-knk.jp/sibudayori/sibudayori.html

河野 千代(KONO,Chiyo)
技術士(建設部門)

・技術士(建設部門)
・公益社団法人日本技術士会理事
 近畿本部副本部長
 近畿本部建設部会副部会長
 技術士制度検討委員会委員
 修習技術者支援委員会委員
 近畿本部修習技術者支援委員会委員長
 近畿本部総務・企画委員会委員
 近畿本部研修委員会委員
 近畿本部合格者祝賀会委員会委員
 近畿本部協賛団体強化委員会委員
・株式会社久本組所属 企画支援室室長
・連絡先:kouno@hisamotogumi.co.jp

まち・ひと・しごとを繋ぐ ~技術がそれを可能にする~

河野 千代 技術士(建設部門)

インフラネットワーク周辺では、企業を集め、ひとを集めた結果が見て取れる。ひとや社会の活動に、ひと・モノの移動は必要で、「不便」はひとを遠ざける。人口減少に歯止めをかけ、地方の活性化を促すには「コンパクト」だけでは難しく、技術者の造り、遺すインフラネットワークで地域社会に貢献したい。技術者の担う役割は重く大きく、その成果は国民の安全・安心と建設資産としての価値に大きく影響する。「プロフェッショナル」であることに恥じない成果で社会と国民の期待に応えたい。

キーワード:繋ぐ,インフラストラクチャー(社会基盤),建設資産,品質は技術者の意思

1.はじめに

まち・ひと・しごとをインフラは繋ぐ。ひとや社会の活動に人とモノの移動は必要で、「不便」は多くのひとを遠ざける。一方で、災害時においてインフラは「いのち」を守る施設となり、「いのち」を繋ぐ道となる。技術者の造り、遺すインフラは、長期にわたり多くの営為を守りつづけ、地域や国力の維持と発展をもたらす重要な要素といえる。故に、我が国の社会基盤をつくり、守る技術者の担う役割は大きく、その社会的責任は重い。

ここでは、地域の維持・発展における課題克服に向けた国の方針と近畿におけるストック効果をいくつか紹介し、相次ぎ露見する建設工事の不祥事に鑑みて、すべての技術者へ。インフラを「つくり守る(維持)側」の私が考える『プロフェッショナル・エンジニア』について述べてみたい。

2.国の基本方針

2050年、人口が2010年の半分以下となる地点は現在居住地域の6割以上と予測されている 1)。都市圏の機能維持には一定規模以上の人口が必要であり、今後急速に加速する少子高齢化、首都圏への過度の人口集中に歯止めをかけるとともにそれぞれの地域を活性化することで活力ある日本社会の維持を目的とした「まち・ひと・しごと創生法」が施行された。キーワードは「潤いある豊かな生活を安心して営める地域社会の形成」「地域社会を担う多様な人材の確保」「地域における魅力のある多様な就業機会の創出」である 2)。これと並行し、国土交通省では「東日本大震災からの復興加速」以外に以下の基本方針を打ち出し1)、施策を進められている。

2.1 豊かで利便性の高い地域社会の実現 1)
「コンパクト」だけで地域機能を維持することは難しい。地域生活拠点と都心を結ぶ「コンパクト」+「ネットワーク」により圏域を拡大することで距離の制約を克服し、利便性を高め、地域と拠点の連携を確保する。また、地域センター型の道の駅には診療所、役場機能、高齢者住宅などを併設し、高度な防災機能を備えた広域支援や後方支援拠点を形成する。地域を支える生活幹線ネットワークを繋ぎ、豊かで利便性の高い地域社会の実現を目指す。

●医療体制維持の例
長野県佐久市周辺では、上信越道、中部横断道などの道路ネットワークにより、佐久総合病院を中心とする救急医療体制が構築されている。

●地域雇用創出の例
新潟県村上市では日本海沿岸東北自動車道の整備を見越し、航空機内装品の世界的トップメーカーが進出。地域雇用を創出し、地域経済に貢献している。

2.2 国民の安全・安心の確保 1)
わが国全体の橋梁数約70万橋に対し、市町村管理の橋梁数は約52万橋にもおよぶ(全体の75%、国・高速道路管理の橋梁はわずか6%)。道路の老朽化対策を計画的に推進するとともに、技術者不足の地方公共団体へ重点的な技術支援を推進し、平常時・災害時を問わず、安全・安心な道路マネジメントを行う。また緊急輸送道路の強化として代替性の確保、ミッシングリンクの整備、橋梁の耐震化、道路法面の防災対策、倒壊による道路閉塞回避の無電柱化の推進や、少子高齢化社会に対応した道路機能向上などの取り組みを進める。

2.3 日本経済の再生 1)
現在における我が国の高速道路延長割合は道路全体のわずか0.7%、その3割以上は3車線以下である。また、一人当りの渋滞による年間損失時間は約40時間、乗車時間(約100時間)の約4割(欧米主要都市の渋滞損失割合は移動時間の約2割)におよび、その総渋滞損失は年間約280万人の労働力に匹敵するといわれている。現在抱える時間損失、低い時間信頼度の問題を克服し、人流・物流の活性化を図る。また、根幹的道路網を重点的に整備することで迅速かつ円滑な物流ネットワークの強化を実現する。あわせて開通見通しのきめ細やかな共有や、民間投資との連携整備への重点支援などにより、企業の活動を支える質の高いインフラで経済の再生に貢献する。

3.近畿における道路のストック効果 3)

3.1 第二阪和国道沿線
大阪府と和歌山県内陸部を結ぶ第二阪和国道は、平成15年より部分開通を開始以来、沿線に多くの町が形成された。人口推移を見てみると、箱作ランプ付近においては2,874人(H15)から4,697人(H27)へ、箱の浦ランプ付近では283人から1,175人へと居住人口は大幅に増加した。
また、平井ランプ付近の分譲住宅契約戸数では、139戸(H15)から1,602戸(H26)へと約12倍の大幅増となっている。

3.2 阪和自動車道沿線
大阪府から和歌山県沿岸を結ぶ阪和自動車道は平成14年に御坊市まで開通し、平成26年には南紀田辺まで延伸した。道路アクセスの向上による白浜町への外国人観光客の増加は著しく、平成14年では約8千人であった外国人観光客は、平成26年には約8万人(約10倍)となった。また、アクセス時間の短縮により長期滞在が可能となったことから、日帰り客一人当りの観光消費額は平均4,154円(H14)から10,819円(H26)に増加した。

3.3 京奈和自動車道沿線
大阪・名古屋などへアクセス性を向上させた京奈和自動車道沿線では、奈良県内の新規工場立地が10年間で約5倍となった。従業員数100人超の大型工場新設など、地域雇用創出の効果を生み出した。

4.技術者の担う役割

現在大阪においても関西・大阪の成長に必要なインフラの強化、道路や鉄道ネットワークの充実、防災・減災対策として防潮堤の液状化対策、広域緊急道路や橋梁・下水道施設の耐震化、防災公園の整備を順次進めており、当社も現在、地下河川、防潮堤補強、液状化対策を施工中である。何を目的でこの事業を行うか、なぜ必要なのか、どういった効果をもたらすか、近隣住民の理解と協力を得て工事は進行中である。建設業の担い手不足が深刻化するなか、地域住民の協力無くしてインフラを永く維持することは困難な状況となりつつある。建設後も地域住民が建設物に無関心となることなく、今後の維持についても理解と協力を得ることを念頭に、親切・丁寧な対応を心掛けている。

また和歌山県内においては、高速道路の複線化・延伸に向けた工事が進められている。和歌山県内には未だ国道42号のみ、前は海、後ろは山の地域が存在する。海沿いに走る国道42号が津波で冠水・埋没した場合、救命・緊急輸送道路は他にはない。和歌山県南部に家族を持つ一人として、高速道路延伸によるダブルネットワークの早期完成を待ち望んでいる。インフラ整備は、決して無駄ではない。

どなたかが「インフラが社会を決める」と言われたが、それはある意味正しいといえる。とすれば、インフラを構築し、守り続ける私たち技術者の為した結果は、豊かで安全・安心な社会活動や国民生活に大きく影響を与えていることになる。さらに加速する人口減少・少子高齢化、首都圏への過度な人口集中問題など、わが国が抱える課題克服への施策には、技術者の貢献無くして実現しない。これら状況を克服し、安全・安心で豊かな未来の構築へと真っ先に貢献できるのは、私たち技術者をおいて他にはいない。ゆえに技術者の担う役割は重く大きく、その成果は建設資産としての価値に大きく影響する。自身の成果は、効果をもたらす計画であったか?強靭な社会基盤を残せたか?人命は救助できたのか。我々技術者は過去から学び、未来に向けた多くの最善策をまちに、この国に提言し、我々にしか実現できない結果で社会に貢献することが可能である。それぞれの技術と人間力を以て強靭なインフラの形成に挑み、100年の耐用年数で期待に応える技術者が、この国で一人でも多く活躍されることを期待する。

 

5.おわりに

相次ぎ露見する建設工事の不祥事に鑑みて、ここまであえて「技術士」に特定することなくすべての技術者へと述べてみた。技術士に限らず自らを「プロフェッショナル」と自覚するならば、技術者が担う重責と役割に自負を持ち、それに恥じない成果で期待に応えたい。でなければ、たとえ技術士の称号を手にしても真の『プロフェッショナル・エンジニア』であるとは言えない。

おそらく、自らの力量不足から最高水準に並ぶ結果に至らないことは多い。しかし自分を顧みて言うならば、その時々に置かれた状況の中で社会的重責を自覚し、全力で取り組んだ結果であることは間違いない。自らの不足をそこで学び、また次の成果へと、さらにその技術と「思想」は次世代へ、繋いでゆくことが大切である。品質は間違いなく技術者の意思によって決まる。思想も含めて次世代に伝えることが重要である。

余談であるが、ゴールデンゲートブリッジ建設のチーフエンジニア、ジョセフ・ストラウスは、橋の寿命はどのくらいかと質問され、「手入れさえすれば永遠に」と答えた4)。自分達の造る橋は永遠に保つ、そう答えた技術者である。完成からすでに79年。ジェセフ・ストラウスの思想と強い意志のもとに、ただの橋を造っているのではなく「現代技術史上最高の橋」を造っているという確固たる自信に満ちた労働者たちの建設したこの橋は、今も丁寧に修繕を続けられ、メンテナンスにかかわる者も皆、その仕事を誇りに思っているという 4)。この橋が与えた経済効果は計り知れず、建設当時の技術者の思想とその意志は79年経過した今も変わらず受け継がれているようだ。

我々の造り、守る構造物がたとえシンボリックな存在ではなくとも、いのちと暮らしを支え、豊かで安全・安心な地域社会の実現に技術者が貢献しているのは間違いない。一部の不祥事に対する世論に失望することなく、『プロフェッショナル』としての信念に沿った決断を。そして、与えられた使命を全うされることを「技術士」の一人として願う次第である。

まち・ひと・しごとを繋ぎ、そして活力ある日本社会を次世代へ。我々の技術がそれを可能にする。

<引用文献>
1)平成28年度道路関係予算概算要求概要
(平成27年8月国土交通省道路局,国土交通省都市局P1,3,13,15,17,24,28)
2)まち・ひと・しごと創生法の概要
(www.kantei.go.jp/jp/headline/chihou_sousei/pdf/siryou1.pdf)
3)国土交通省近畿地方整備局道路部HP
「道路のストック効果第二阪和国道,阪和自動車道,京奈和自動車道」
4)http://goldengate.org (橋の設計と建設の歴史:建設作業,橋を守る)

<参考文献>
5)大阪府平成28年度都市整備部運営方針

河野 千代
(こうの ちよ)
技術士(建設部門)

近畿本部建設部会 幹事長
協賛団体強化特別委員会 委員
会員拡大委員会 委員
科学技術支援委員会 委員
株式会社久本組 企画支援室 室長

「もの造り」の現場から~ひと手間の積み重ねが高品質を導き出す

河野 千代 技術士(建設部門)

構造物は人が造るもの。多くの人の手による作業の積み重ねでモノを造る。基本を大切に、全ての工程で今できる限りの工夫を。誰もができる簡単な「手間」の積み重ねが高品質を導き出す。それには関係者全員のマネジメントが重要となる。ここでは、作業員を含めた全員参加型「もの造り」について報告する。

キーワード:マネジメント、全員参加、考える機会を与える、目的と役割、人が品質を左右する

1.はじめに

「良い材料」も「いい機械器具」も、それを扱うのは「人」である。人がこれら機能を十分に発揮させることができるかどうか、それが高品質に繋がるカギになる。
コンクリート構造物の築造には多くの人が参加する。鉄筋・型枠の組立、打設前の清掃、施工性能の良いフレッシュコンクリートの製造、その運搬、圧送、打込み、締固め、養生など、工事管理者が直接作業するわけではない。管理者の指示や提案を直接作業者が理解し、実行し、そしてそのフィードバックを次回作業に生かすことが重要である。できることに限りはあるが、基本を大切に今できる工夫は何かを考え、ひと手間を積み重ねて結果を省みる。
目的意識をもって作業に取組み、何を得るための作業であるかを認識し、共有することが大切だと考えている。ここでは、関わる全員参加型「もの造り」の一端を報告する。

2.良い環境とチームワークの形成

高品質を目指すには、現場に良い材料を提供し、作業に良い環境を整え、品質向上に向けて目標に向かい成果を上げようとする協働作業(チームワーク)を形成することが重要である。作業に関わる全員がそれぞれの役割を認識し、考え、協力し合い、一つひとつ確かな手間を積み重ねる。正しい知識と役割分担、仕事の流れについて共有し(手戻り・重複作業の回避)、品質向上に向けて全員が参加している認識を持てる取組みを行っている。また、誰でも分かる指導や視覚・聴覚で誰もが確認できる現場づくりを心掛けている。

1)手書きすることで考える機会を与える
作業や安全についての確認事項は何でも手書きで作成する。人はとにかく忘れる、聞き流す。誰が指示したのか、誰が担当であったのか、うやむやになってしまうことも少なくない。書くことにより一度考える機会を与え、作業の目的と責任の所在や自分の役割を認識させる。目的や担当者(責任者)を明確にせず作業に取り組むより、姿勢に変化が現れる。

① 作業手順書作成前打合せ記録
各作業における作業手順の作成について、元請から下請に対する指示と要求事項を記入したものである。作業が変わる毎に作成し、職長との事前打合せに使用する。後日、直接作業者はこの記録に書かれた指示や要求事項を確認しつつ、作業手順を作成する。指示や要求事項に対し、抜け落ちのない手順書が作成される。

② 個別工事作業手順書(図-1)
①の事前打合記録を踏まえ、作業に関わる全員で、作業が変わる毎に作成する。使用資機材、作業概要、各作業手順のポイント、リスクアセスメント、加えて各作業の点検方法など下記について記入することで、担当者(責任者)や目的を明確にする。
その点検は、
・誰が ・いつ ・どこで ・なにを ・どのように ・何のために
行うのですか?
災害防止対策は
・誰が ・いつ ・どのように
行うのですか?
これらの作業手順書は職長だけで作成するのではなく、作業に関わる全員で意見を出し合って記入する指導をしている。どこの現場も同じ作業だからとコピーアンドペーストではいけない。
また、これら作業手順書の受領後は元請け職員全員が目を通し、個々の指示事項を書き込む。誰がどのような指示をしたか一目で分かるよう、個々の指示事項記入のペンを色分けする。確認のサインだけをするのではなく、現場を管理する全員が作業手順をしっかりとチェックしなければ手順の違いにも気づかない。つまり、作業管理はできない、ということになる。

③ 環境・安全ミーティング報告書
日々のKY活動として、職長だけでなく作業に関わる全員がその日のコミットメントをそれぞれ記入するものである。全員が当日のスローガンを掲げ、作業に取り組んでいる。またさらに、リスクアセスメント評価により作業ごとの危険度低減方策をたて、安全意識の維持に努めている。

④ 安全巡視記録
元方安全衛生責任者、総括責任者、各職長それぞれが毎日2回実施する巡視点検記録である。点検を充実させることで、危険を回避する。是正箇所を発見した場合は指導カードをその場で切り、処置されたカード記入内容と共にその是正を確認する。私たち管理者は、安全に作業に取り組むことのできる環境の維持に努めなければならない。 

⑤ 午前・午後休憩後の安全指導
午前・午後の休憩後は職長から作業員に向け、安全指導の時間を設ける。作業時に気付いた危険(品質を含む)について指導を行う。1日2回の安全指導について書く責務を与えることにより、職長の管理(気付き)に違いが現れる。また、作業員はこれを了解し、署名する。

⑥ 非定常作業手順書
これは、急に予定外作業が必要となった場合に作成する。作業を数時間止め、必ず手順打合せを行ったうえ、予定外作業を行う。非定常作業は事故(品質を含む)発生の可能性が高く、事故は数時間止めた作業損失とは比べものにならない損害をもたらす。非定常作業前の手順作成と安全確認は怠っては ならない。

⑦ 生コンクリート受入試験総括表(図-2)
コンクリート打設当日は、受入品質試験結果をこの用紙に順次手書きで記入する。特に橋脚のコンクリート巻立てなど、スランプ確認は全車について実施しており、受入検査は数人が対応する。
複数の目で品質に変状がないかを管理するのが目的である。ちなみに、なぜスランプ確認を全車実施するのか。現場に提供する材料として、全ての使用資機材定期検査に立会し、JIS に囚われない施工性能の良い配合を選定する。打設時期によってはあらかじめ実機で練混ぜたうえ配送のスランプロスを確認する、打設当日1台目出荷前には必ずプラントで性状を確認する、朝一のトラブルを考え最初の2台は出荷間隔を少し長めにするなど、私たち管理者は、プラントと共に配合修正した「品質と施工性能の良い」フレッシュコンクリートを常にできるだけ変状無く現場に提供したいと考えている。試験結果が「許容値内であれば良い」のではなく、品質の変動・異常にいち早く気付き、その原因を突きとめ、必要な場合は直ちに処置を講じる。その判断基準として全車スランプ試験を行っている。単位水量の確認もこれに他ならない。
また、アジテータ車の車番管理については、同じ車番で品質変動が続くことがないかを確認するものである。これらは人が気付き、判断し、行動に移すことで意味を成す。

2)全員参加の周知会
全ての作業について、関わる全員が正しい知識を共有し、「いいものを造る」という目標に向かって親切丁寧に取り組むことが大切である。作業前には、関わる全員の意見が入った手順書をもとに全員参加の周知会を行う。(図-3,4)
扱う材料も打設条件も、現場毎に特性があり違いがある。作業のポイント、作業分担と責任者、潜む危険と点検方法とその対策について再確認を行い、作業全体の流れを把握する。「指示だからやらないといけない」という義務感だけで作業をこなし、結果に関心を持たない「手段の目的化」とならないよう、なぜその作業をしているのか、それによってどういった変化が起こるのかを必ず交えて周知する。

また、疑問点や気付いたことなど誰でも気軽に質問できる雰囲気作りを心がけ、傍聴人は作らない。こうして全員が発言し、目的やそれぞれの役割などを共有することで、「安全で高品質なもの造り」への参加意識とチームワークが生まれ、作業に取り組む姿勢が変わると考えている。

3.ヒューマンエラーを避けるには

人は誰でも時間の不足や疲労につれて「やらなくても大丈夫。しかしやった方がいいのでやりましょう」という作業を省きたくなるものである。また、「親切丁寧」は雑になり、ヒューマンエラーも発生する。ゆえにこれらを回避できる無理のない打設計画が必要で、一人の作業量を考えた人員配置と余裕ある時間配分を心掛けている。時間が余れば人は、面倒でも決められたことは何とかやるもの。また、多種多様に開発されている高機能材料や器具の力を借り、できるだけ作業を楽にしてヒューマンエラーやムラを減らす取組も合理的である。しかし、誰でもできる少しの工夫だけでも効果はある。

1)鉄筋曲げ加工部の防錆処理
鉄筋端部、曲げ加工部は錆びやすく、コンクリートとの付着を阻害する恐れがある。しかし、打設前の錆び落としは、型枠が汚れる、ムラがでやすい、 手を抜きたい。あらかじめ、端部・曲げ加工部に防錆処理を施せば、この作業は必要ない。

2)型枠の締め付けチェックとゆるみ止め
フォームタイの座金に「くさび型」は使用しない。くさびがずれて緩み、躯体に段差ができないよう「ねじ式」を使用している。しかしこのねじ式も締め忘れがあっては意味がない。ゆるみ止めも兼ねて、締め付け完了後には座金にテープを巻いていく。テープが巻かれていない座金は締め付けがまだだと一目で分かる。(図-5)

3)鉄筋に養生テープ
コンクリートの打設時は、次回打設部の鉄筋にコンクリートが飛び散り付着する。打設前にはできるだけキレイに清掃するが、これも面倒なムラの出やすい作業に違いない。面倒を省くためにどうするか。付近の鉄筋に養生テープを貼り付ける。巻くのではなく、板海苔のように貼り付ける。ちぎって貼るだけの作業である。打設後はテープを剥がす作業だけとなり、さすがに手を抜く人はいない。鉄筋が乾燥した状態であれば鉄筋袋を使っても良い。しかし雨天後など、鉄筋表面の状態により、被せると却って錆が発生することもある。私は、コストも安い養生テープで十分だと思う。
さらにその他、打込みの工夫、打継ぎ目の工夫、養生の工夫と全員の確かなひと手間は積み上げられ、完成に。紙面の都合上、全てを紹介することはできないが、その成果を確認したときの喜びは筆舌に尽くしがたい。またそれは私たち管理者だけではなくすべての協力者に及ぶ。こうした貴重な時をいただいたことに感謝している。最後に、これら構造物は有害なひび割れの発生も無く高品質で綺麗なものであった。そして、発注者より良い評価をいただいた。

4.おわりに

まだ高機能材料も機械器具も無いその昔、親切丁寧に造られたコンクリート構造物は今も健在で、「親切丁寧」の大切さを教えてくれる。技術やデジタルの発達した現在でありながら、ここで報告した一端は昔とそう変わらない「人による単純で簡単」な作業である。しかし技術やツールが発達した現在も、行動に移すための判断は人が行い、そしてその行動は人が主体である。それぞれの役割を持った「人」が品質を左右し、「人」のマネジメントが品質の行方を決めるといえる。そこには、技術者(管理者)の正しい知識が必要なのは言うまでもない。
こうして基本に立ち返って考える機会を与え、行動に移し、見て、聴いて、気付いて、また考えて次に繋げるスパイラルアップは、技術そのものである人の感覚(勘)を育て、そうして暗黙知は継承されていくものだと私は思っている。
この先も、完成した構造物が永く社会に貢献してゆくことを信じ、一生懸命な「もの造り」に関わり続けていけたらと思う。

河野 千代
(こうの ちよ)
技術士(建設部門)
株式会社 久本組   企画支援室 室長
コンクリート診断士 /コンクリート主任技士

e-mail:kouno@hisamotogumi.co.jp
 
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